20代の初め、ジャズを聴きまくった頃は、自分の人生において貴重な時間を割いてまで聴くべき音楽はジャズしかないと本気で思いこんでいた。それもそのころ台頭していた新主流派を中心にしたモダン・ジャズ一辺倒で、スウィング・ジャズなんて古くて幼稚だし、ボーカルもおしなべてかったるいとほとんど食わず嫌いもいいところだった。ジャズ喫茶の暗がりで、たばこの煙とともに沈殿したように音の混沌の中に身を沈めて聴いたコルトレーン。その後30年以上の時を経て、はっきり言ってコルトレーンなんて今は聴きたくもない。むしろ極端なほどジャズのコンボ演奏を聴かなくなってしまい、ボーカル一筋に様変わりしてしまった。
さて、そんな今宵のジャズ・ボーカル美女はヘレン・ウォードの再登場。このアルバムはヘレンがベニー・グッドマン楽団に専属歌手として在籍していた1934〜36年の間に吹き込まれた曲を集めたもの。ヘレンがグッドマン・バンドに加入したのは18歳になったばかりの頃で、グッドマンの生きの良い演奏と二十歳そこそこのヘレンの溌剌としたヴォーカルが何とも新鮮で気持ちが良い!こんな時代だから基本に一度立ち返って、上手くて美人のストレートなスウィング・ジャズに、心を開いて酔いしれよう。
叶うことなら、動いているヘレン・ウォードを観てみたい・・・。
[ヘレン・ウォード(Helen Ward)「THE COMPLETE ON COLUMBIA」(1934〜53年)]